
いったい何を喰っているのだろうか。
安定したライズではない。小堰堤の下にできたプールのあちこちで、時折ヤマメが思い出したように飛沫をあげている。魚影こそ確認できないが、プール内にはたくさんのヤマメが泳いでいるようだ。
おそらくヤマメは1ヶ所に定位しているのではない。ライズのあった周辺をクルージングしながら、時々水面付近の何かを捕食しているのだろう。ライズ付近に流すドライフライにも反応を示し飛沫をあげてライズするが、どういうわけか簡単にはフッキングはしてくれない。
取材は2015年4月6日。解禁2日目の箒川(ほうきがわ)・一般渓流エリア。栃木県の塩原温泉内を流れる銘川だ。

圧倒的な放流量この区間より下流側には、3月1日にすでに解禁しているC&Rエリアがある。C&Rエリアは大ニジマスが釣れることで人気のフィールドだが、今回取材した一般渓流エリアはヤマメ中心の里川。マッチングザハッチや釣り上げリのフライフィッシングをのんびりと楽しめる開けたフィールドだ。
解禁日だった前日は、小雨の降るあいにくの天気にもかかわらず驚くほど大勢の釣り人が河原に並んでいた。漁協によれば約1200人の釣り人が、この日竿を出したのだそうだ。
これだけ多くの釣り人を集めてしまうのには理由がある。
放流量が圧倒的なのだ。
ヤマメ・イワナ・ニジマス合計で約10万匹。このうちニジマスが約7万匹。ヤマメは約2万匹。残りがイワナ。これを解禁前の数日間で一気に区間に放流してしまうのだという。こんな豪快な放流を実施するフィールドは他に聞いたことがない。
さらに驚かされたのは、放流されたニジマスの多くが解禁日のうちに釣られてしまうということ。解禁日には30匹以上ものニジマスを持ち帰る釣り人がたくさんいる、と漁協の方が教えてくれた。
喧騒が収まればフライ天国実際、解禁日の箒川を眺めていると、あちこちで竿がしなりニジマスが釣り人の手中に収まっていく。一方でヤマメやイワナを釣り上げるエサ釣り師はあまり見かけない。水中を流れるエサはニジマスが先に喰ってしまうのかもしれない。
そんなわけで、箒川でのフライフィッシングが本当に楽しくなるのは、ニジマスが釣り切られて釣り人たちのお祭り騒ぎが終わる4月中旬ごろから。その頃になるとイワナもヤマメも渓流の流れになじんで、天然魚の行動に近い状態になる。流れに沢山残されたヤマメやイワナのライズを独り占めで楽しめる状態になっている、というわけだ。
派手なライズ
さて、この取材の日はまだ解禁2日目。周囲のエサ釣り師たちは引き続き盛んにニジマスを釣り上げている。
しかし、ライズしているのはヤマメだけのようだ。ドライフライに反応してくるのもヤマメだけ。ニジマスは水中のエサにしか興味がないのだろう。流れにはイワナもいるはずだが、ヤマメとは着き場が異なるせいか姿を見かけない。
この日のヤマメのライズは、どれも飛沫をあげるスプラッシュライズ。魚体全体を水面上に跳ね上げるほどの派手なライズフォームだ。午前11時ごろから夕刻まで、散発のライズが各堰堤下を中心に見られた。
さて、何を喰っているのか。時折、#20ほどのコカゲロウや#14ほどのメイフライが飛んでいるのを見かけるが、流れには目立った流下物は見当たらない。

ティペットに結ぶフライも、#18や#20のコカゲロウ系から#14前後のマダラカゲロウ系まで、あれこれ試してみる。水面直下のフライパターン、水面から高く浮くフライパターンも試してみる。
反応が良いのは#18や#20の水面直下のパターンだったが、フッキング率が高くない。空振りが多いのだ。
直前で喰うのをやめているのか、喰い損なっているのか、いずれかということなのだろう。
フッキング率が悪い原因は?
喰い損なっているのだとすれば、その原因は2つ思いつく。
まずはフライにドラッグが掛かっているケース。次に、放流されて間もないヤマメであるため流れるエサを喰うのに慣れていないというケース。
直前に喰うのをやめているのだとすれば、考えられる原因はやはり2つ。
フライパターンがマッチしていないケースと、フライにドラッグが掛かっているケースだ。

これらのどのケースもそれなりに思いあたるフシがあって、今でも原因を特定できていない。
この日は風が下流から上流に向かって吹いていて、フライはティペットより上流側に落ちることが多かった。この状態はドラッグが掛かりやすい。
ヤマメのライズフォームも気になる。スプラッシュライズは決して珍しいものではないが、それにしてもこの日のライズは派手すぎる。流れるエサに慣れていないヤマメが慌てて流下物に飛びついているようにも感じる。
さらに、帰り際に気づいたことだが、岸辺にかなり多くのクロカワゲラがいた。これも気になる。この日はクロカワゲラにマッチするフライは使っていなかったのだ。
もし釣れたヤマメのストマックを見ていれば、ある程度の答え合わせができたのかもしれないが、この日はストマックポンプは持参していなかった。
確かな答えが出ることはもちろんないのだが、それに対していろいろな想像をめぐらす。こんなところもフライフィッシングの楽しさのひとつだ。