
連日の猛暑。
やはり温暖化の影響なのだろうか。ここ数年は気温が体温を超えてしまう日があっても、特に驚かなくなってしまった。
フライフィッシングを楽しむために渓流に出掛けるというよりも、とにかく涼しい場所に逃げたい。標高の高いフィールドに行きたい。天然のクーラーの中でのんびりしたい。
近年この季節は、そんな風に考えるようになってしまった。
そんな中で今回、白羽の矢を立てたのが群馬県の野反湖だった。野反湖の標高は1500mを超える。涼しくのんびりしたフライフィッシングを楽しむにはもってこいのフィールドなのだ。
■大自然に囲まれた山上湖
野反湖は、群馬県中之条町に位置するダム湖。群馬と長野の県境近くで、新潟との県境も近い。ダムの標高は1517m。日本では南相木ダム(1532m)に次いで二番目に標高の高いダムだ。
湖の周囲は原生林に囲まれている。高山植物も多い。開発の進んだ観光地ではないので、周囲に人造物があまり見当たらないし、喧騒もない。湖自体も一般のダム湖とはずいぶん様相が異なり、天然湖にしか見えない。もう少し言えば、日本の湖という感じがしない。欧州の湖にでも来ているかのような錯覚すら覚える。
下界の暑さをよそに、この大自然の中でのんびりとフライロッドを振る。なんとも贅沢な時間の過ごし方。
■信濃川水系!?
ところでこの野反湖は、秘境・秋山郷を流れる中津川の源流部にあたる。
中津川は信濃川の支流なので、野反湖は信濃川水系ということになる。
信濃川といえば日本一の流程を誇る大河だが、新潟市内で日本海に注ぐ川。
つまり野反湖は群馬県にありながら、その水は太平洋ではなく日本海に向かって流れ出しているのだ。
野反湖の水は長野県側の斜面に流れ出して日本海に向かうのだが、この山の群馬県側の斜面を流れる沢は全て利根川水系で、太平洋に注ぐ。

この付近の山々は、日本海と太平洋の分水嶺というわけだ。
■付近は湿原地帯だった
現在は東京電力の発電用ダムである野反湖。
ダムができる以前のこの一帯は湿原地帯で、池が点在していたそうだ。想像するに、尾瀬のような雰囲気だったのではないだろうか。
ダムが完成したのは、1956年(昭和31年)。下流にある水力発電所の水力を補給している。
■まずは人気のニシブタワンドへ
さて、この日まずロッドを振ったのは、野反湖の中でも一番の人気ポイント、ニシブタワンド。ニシブタ沢とカメヤマ沢の二本の沢が流れ込む入り江だ。

野反湖でのフライフィッシングでターゲットになるのは、ニジマスとイワナだが、このニシブタ沢ではニジマスの自然繁殖が確認されている。
ニジマスはあちこちのフィールドで放流されている人気魚種だが、本州ではその定着率は低く、自然繁殖が確認されている場所は数少ない。野反湖は天然ニジマスと遊ぶことができる、本州では類稀なフィールドというわけだ。
ちなみにニシブタ沢は保護水面に指定されていて、通年禁漁となっている。
ワンド内を見渡すと、かなりの数のライズを確認することができた。相当な大物も時々派手にジャンプしている。
■ドライフライへの反応は良いが

ニジマス達はワンド内を回遊しているのだろう。ライズは神出鬼没という感じ。1ヶ所に安定せず、湖面のあちこちで起こる。
これでは狙いようもない。あまり期待せずに、ともかくドライフライを水面に落としてみると、これが思いのほか反応が良い。数投に一度くらいの割合でニジマスがフライに飛び出してくる。
しかし残念なことに、釣れてくるのは稚魚ばかり。ティペットに結んでいたのは#10や#12といった大き目のフライだが、よくその小さな口でフッキングしたものだ、と感心してしまうほどのサイズ。
だが、これも考えようによっては悪い話ではない。このニジマスの稚魚たちはニシブタ沢で繁殖したものに違いないからだ。相当な数がいる。彼らも来年には立派なサイズに成長して、きっと私達を楽しませてくれることだろう。
■北沢放水口へ
ニシブタワンドでは、大型魚よりも先に稚魚がフライにでてしまうようだ。
ポイントを移動して北沢放水口付近を探ってみることにした。こちらも野反湖の定番ポイントのひとつだ。
こちらはニシブタワンドと違い、ライズは全く確認できなかった。フライをキャストしても反応はめったにない。
それでもあきらめずにキャストを繰り返すと時折、フライのある水面が割れて飛沫があがる。狙いどおり、ニシブタワンドよりも少しだけサイズアップしたニジマスが釣れてくる。
といっても20cmそこそこのものばかり。ニジマスとしては少々物足りないサイズだった。
フライを沈めたり引っ張ったりするフライフィッシングをすれば、結果は違っていたのかも知れないが、結局この日はドライフライで通した。
■ブルーバック・レインボー
野反湖での釣りの魅力のひとつにブルーバック・レインボーの存在があげられる。背中の青いニジマスのことだ。
この日は雲が多かったが、晴天の日の野反湖の湖面は驚くほど青い。息を呑むほど美しい。
野反湖のニジマスの背は、その青い湖面の保護色ではないか、とも言われるが、真偽のほどは定かではない。
数年前からブルーバックが少なくなったということで、野反湖ではC&Rが実施されていたが、今年はそれが解除になっている。ブルーバック・レインボーが戻ってきたのだそうだ。
残念ながらこの日は、「これぞブルーバック」といえるようなニジマスに出会うことはできなかった。