■首都圏から至近の「賢い鱒」のフィールド
山梨県の桂川といえば、首都圏から至近のトラウト・リバーとして名高い。
核心部までは都心から100kmあるかないかの距離。中央道で2時間かからずに到着できてしまう。

にもかかわらず、魚影は濃く大型魚も多い。フライフィッシングの対象となる魚種も豊富で、ヤマメ、イワナはもちろん、ニジマス、ブラウントラウトまで狙える。
そんな場所なので、もちろん釣り人も多い。エサ釣り、ルアー、フライフィッシング。桂川を1日歩けば、渓流釣りのほとんど全てのスタイルを目にすることができるだろう。
そうなると、ここに棲む渓魚達は当然スレてくる。ライズに向かって自信満々に投じたフライが、いとも簡単に見切られる。賢い。フライマンは躍起になってあれこれとフライ交換をする。

それが桂川の厳しさでもあり楽しさでもある。
■3つの漁協
桂川には、下流側から順に、桂川漁協、都留漁協、忍草漁協の3つの漁協がある。それぞれに有効な遊漁券が異なるので注意が必要だ。
最下流に位置する桂川漁協の区間は美しい魚体の大ヤマメのフィールドとして有名。大月市内のこの区間は、ウェットフライでの一発大物狙いという印象が強い。
その上流側、都留市内や西桂町を管轄とする都留漁協の区間は、桂川のトラウトフィッシングのメインフィールドといえるかもしれない。早期から多くの釣り人たちがこの区間に入渓する釣り人銀座だ。

最上流部は、忍野村を管轄とする忍草漁協の区間。こちらはフライフィッシングの聖地として名高い。ここではフライマンが釣り人の多数派だ
忍野を流れる水は富士山の湧水で、一年中水温が安定している。水生昆虫のハッチも多く、シーズンを通してライズ狙いのフライフィッシングを楽しめる。
このように桂川は、タイプの異なる3漁協のフィールドで構成されている。
■まずは都留漁協の区間へ

取材は2016年4月上旬。まずは都留漁協管内、田原の滝より下流側の都留市内のポイントを覗いてみた。
都留漁協管内の桂川でのフライフィッシングといえば、西桂地区が核心部なのだが、その区間の桂川は完全な護岸の流れで、どうにも絵にならない。魚は多いが撮影には不向きなのだ。
一方で都留市内の桂川は、谷が深く緑に囲まれたポイントが多い。今回は撮影を優先してそちらに入ることにした。
■桜が見頃の川茂堰堤下

しかし、都留市内の主な入渓ポイントではすでに何人ものエサ釣り師が竿を振っていた。そこに割り込むのは、ちょっと気が引けるし撮影もしずらい。
あちこちのポイントを見て回ったあげくに入渓したのは、都留漁協管内では下流部。川茂堰堤の下流側だった。都留漁協管内の川茂堰堤より下流はニジマスについては禁漁期が設定されておらず、通年釣りができる区間として知られる。
この辺りの標高は400mほどで、渓流域としては低いほうだ。都心部の桜がピークを過ぎたタイミングのこの日、ちょうどここの桜は見頃を迎えていた。
桜は見頃だが、肝心の渓魚の姿が見当たらない。水生昆虫の流下も飛んでいるのも見かけない。ウェットフライを流してみるが、反応を得ることはできない。

なるほど、ここに釣り人がここにいないのはこれが理由か。魚がいないわけではないだろうが、活性は低いようだ。
■川棚地区
早々に川茂堰堤に見切りをつけて、次に向かったのは川棚地区・中央道下のポイント。こちらは水量が豊富で、いかにも大型トラウトが潜んでいそうな流れだ。
おそらくこの流れには結構な数の良型渓魚が実際に棲んでいるのだろう。川茂堰堤下では感じることのできなかった生命感をここでは感じ取ることができる。
メイフライの飛翔もぼちぼちと確認できる。

ライズは見つからないが、これならドライフライに反応があるかもしれない。システムをウェットからドライフライ用のロングティペットに切り替え、ティペットの先にはメイフライ・パターンのドライフライを結んだ。
しかし、やはりここでも期待通りに事は運ばない。
投じたフライに飛び出してくるのは、小さなヤマメばかりだ。ワカサギと見間違うようなサイズ。稚魚放流されたものだろうか。
グッドサイズのヤマメやニジマス達は、どうやらこの日は水面上の流下物にはあまり関心を持っていないようだ。
ウェットやニンフで水面下を探る手もあったが、このポイントにも見切りをつけて、桂川上流部・忍野へ移動することにした。
■忍野の賢いトラウト

平日だが相変わらず忍野では大勢のフライマンがロッドを振っていた。
短い区間に沢山の釣り人が入る忍野では、釣り上がったり釣り下ったりする歩く釣りはできないことが多い。1ヶ所に陣取ってそこでロッドを振り続けることになるが、大きな大きな富士山を眺めながらのゆったりしたフライフィッシングは、忍野ならでは。なんとも気分がいい。

早速空いている場所に陣取り、流れを覗いてみると、水面近くで流下物を物色中のニジマスやイワナの姿を何匹も見つけることができた。さすがは忍野。魚影は濃い。
といっても、それをドライフライで仕留めるのは簡単ではなさそうだ。ニジマスやイワナは時折水面付近の何かをついばむように捕食するが、何が流れていたのか、こちらからは確認できなかった。
極小のミッジか水面直下の何かだろうか。
実際フライを流してみても、トラウト達は全く無反応。フライに近づいてくる仕草すら見せない。水生昆虫とフライとを完璧に見分けているようだ。

こうしたところも忍野の魅力。サイトフィッシングで賢い魚の動きを目視しながらフライフィッシングを楽しめる。
そんな時間がしばらく続いた後、周囲を飛び交う大き目のメイフライが目立ち始めた。水面の流下も確認できる。
オオクママダラカゲロウ?
やがてライズの量が目に見えて増えてきたかと思うと、周囲のフライマン達がロッドをしならせはじめた。
この時ティペットの先には、CDCスペントウイングのメイフライ・パターン#20が結ばれていた。飛び交うメイフライよりも、一回り小さい。そのフライをそのままキャストすると、それまでそのフライを無視していたニジマスは、今度はあっけなくそれを吸い込んだ。

集中したハッチによって渓魚に何かのスイッチが入ったとしか思えない。こうしたタイミングでは賢い渓魚たちも、興奮するのだろうか。流下物の見極めがだいぶ甘くなるようだった。
集中したハッチは30~40分ほどで終息し、忍野のトラウト達は再び落ち着きを取り戻し、投じたフライを無視するようになった。
ところで、この記事を見て桂川を訪れる方々をガッカリさせてしまうようなことがある。
ゴミの多さだ。特に都留漁協の管内。河原や川底のいたるところにゴミが落ちている。ゴミ拾いをしてみたが、きりがないので断念してしまうほどの量。これはなんとかならないものかと思う。