■渇水の三国川
今シーズンはあちこちのフライフィッシング・フィールドから渇水の情報が飛び込んでくる。
テレビのニュース番組でも、水位が下がったダムの痛々しい様子などが連日報じられている。

一方で今年も「記録的大雨」に見舞われている地域がある。
なんとか、バランスのいい雨の降り方をしてくれないものか、と思う日々である。
今回の取材は、新潟県南魚沼市を流れる三国川(さぐりがわ)。
2016年6月中旬の取材。
例年この時期の三国川の水量は豊富なのだが、今年はご覧のとおりの渇水状態。川幅いっぱい、立ち込むにも勇気がいるほど太い流れでもおかしくないポイントなのだが、今年はチャラ瀬だ。
三国川に限らず、梅雨の真っ只中、最盛期の魚沼の渓流としては、物足りない水量である。
■メリハリのない流れ
左の写真は、数年前の同時期の三国川と、今回の三国川の水量の比較。両方ともこの川の渓流釣りの核心部である小川橋から撮影したものだ。
数年前の三国川の水量は豊かで、水勢があったのがわかる。流速がある部分と、石裏などにできる緩流帯が明確に分かれていて、流れにメリハリがあった。
落ち込みにできる白泡にも勢いを感じる。
それに対して、今回の三国川の流れには勢いがない。全体的にどんよりしてしまって、水通しが悪い印象。メリハリのない流れになっていた。
ダム下や取水堰堤下でよく見られる感じ。本来の水量を取られてしまった生命感の薄い流れ。
三国川のこの区間は、実は三国川ダムの下流だ。水量はダムの放水に左右される。例年のこの時期は大量の雪解け水が三国川ダムを満たしていて、それが放水されるので、ダム下の水量は豊かなのだ。

今冬の降雪量が少なかったことから雪解け水も少なかったのだろう。ダムの貯水量が少なく、今年は放水量も控えめになっているというわけだ。
■水源は越後三山
三国川は、魚野川の一大支流。
新潟・福島の県境にある越後三山や、新潟・群馬の県境にある山々を水源とする。越後三山とは、八海山・越後駒ヶ岳・中ノ岳を指す。
三国ダムのすぐ上流にある「十字峡」と呼ばれる場所で、三国川、黒又沢、下津川の三河川が合流し、三国ダムに注いでいる。
このうち、三国川と下津川は群馬県境付近から流れてくるのだが、山の向こう、群馬県側はみなかみ町。そちらに落ちた水は利根川に流れ込み、太平洋に注ぐ。一方、新潟県側に落ちた水は魚野川、信濃川を経由して日本海に注ぐ。

つまり三国川の水源付近は、分水嶺になっているということだ。
■思わぬ出合い
ニホンカモシカ。日本の固有種で、国の特別天然記念物。
国内に棲息する唯一のカモシカ類であり、また、国内唯一の野生のウシ科の動物なのだそうだ。
長年、渓流のフライフィッシングを続けていると、ニホンカモシカに出くわすことは時々ある。
しかし、川を挟んでカモシカと向かい合い、しばし見つめあったのは今回が初めてだ。
動画で確認すると、どうやらカモシカのほうが先にこちらの存在に気付いていたようだ。こちらは、流れるドライフライに集中して焦点を合わせていたため、カモシカの登場にしばらく気付かなかった。
カモシカはしばらくの間、フライキャスティングを興味深そうに眺めていた。

ニホンカモシカは、警戒心が薄く好奇心旺盛な動物で、人を見に来ることも珍しくはないのだという。
このカモシカも、オレンジ色のラインを振り回すヒトの様子が気になってしかたなかったのだろう。
ヤギやヒツジに近い種であるニホンカモシカは、その愛くるしい見た目のとおり温厚な性格で、人を襲ったりはしない。クマと違って、近くに見つけても危険はないのだ。
ところで、これまでカモシカを見かけたのはたいがい人里離れた山岳地帯だった。
しかし、この場所は山奥ではない。五十沢発電所前の流れ。里川で周囲には民家もある。ここはクマの心配もないだろうということで、熊鈴も付けていなかった。
こうした里川でカモシカと遭遇したのも、ちょっとした驚きだった。
■釣りのほうは
さて、話を釣りに戻そう。
もうお察しの方も多いと思うが、記事がこのような流れで進んでいるときは、釣りのほうはパッとしなかったときだ。

といっても、魚がいなかったわけではない。反応がなかったわけでもない。
満足のいくサイズの渓魚を釣り上げることができなかったのだ。
■魚影は濃い
魚影は濃い。が、釣れてくるのは小さなヤマメばかり。ドライフライに盛んにアタックしてくる。
ワカサギほどの極小サイズが多くて、よくても20cm少々。
三国川は、小川地区より下流はヤマメ中心。それより上流はイワナが中心になる印象を持っていたが、この日は上流側でも状況は変らず、ドライに反応するのは、やはりチビヤマメ。時折釣れてくるイワナも小さい。
■何度か出た良型魚も
渇水の渓流で小型魚ばかりが釣れてくる、というケースは珍しくない。
流れにはきっとグッドサイズもいるのだろうが、警戒心の薄いおチビちゃんたちのほうが先にフライを突っついてしまうのではないだろうか。
今回もまさにそんな状況だった。
チビヤマメがフッキングしてしまうのが、うっとうしくて、フックサイズの大きなフライに交換しても、おチビちゃんたちの猛攻は収まらない。
実は何度かは、良型魚がフライに出たのだが、寸前で喰うのを止めてしまうようだ。全て空振りしてしまった。

渇水で流れが弱く、水面はフラットに近い。そんなポイントでは、やはり大きなフライは見切られてしまうのだ。
小さなフライでは小型魚がフッキングしてしまう。悪循環になってしまうわけだ。
■好アクセス
三国川は、首都圏からの釣り人にも人気が高いフィールドだ。
なにしろアクセスが良い。最寄の関越道・六日町ICから、核心部の小川地区までは10km少々の距離。IC出口から20分かからない。険しい山道や狭い林道を走ることもない。
入渓も難しくない。それでいて豊かな自然も楽しめる。近隣には逃げ場となる渓流も数多く存在する。いろいろな条件が揃っているところが、ここ三国川の人気のゆえんなのだろう。
それにしてもこの季節のヤマメの美しさは格別だ。