■八ヶ岳と南アルプスを同時に望む場所
山梨県の北杜市(ほくとし)。今回紹介する塩川はここ北杜市を流れている。

北杜市の北西部には、名峰・八ヶ岳。八ヶ岳の主峰である赤岳山頂の一部は北杜市に属する。
一方、北杜市の南西部には南アルプスがそびえる。南アルプス・甲斐駒ケ岳の山頂の一部は北杜市だ。
そんなわけで北杜市内には、八ヶ岳と南アルプスの雄大な景色を同時に望むことができる場所が、あちこちにある。北杜市はそんな贅沢なロケーションにあるのだ。
4月から5月前半くらいにかけて、八ヶ岳も南アルプスも雪化粧が残ったひときわ美しい姿を見せてくれる。
今回はそんな景色を楽しみながらの釣行。
取材は2017年4月前半。塩川のポイントを釣り歩いてのフライフィッシングだ。
■金峰山を水源とする塩川

塩川の水源は山梨県と長野県の県境。金峰山から流れ出る本谷川と、金峰山の隣・瑞牆山から流れ出る釜瀬川だ。
金峰山といえば、長野県川上村を流れる千曲川の支流・金峰山川が思い出される。フライフィッシング・フィールドとしてもおなじみの渓流だ。
塩川の源流は、その金峰山川の反対側斜面から流れ出ているというわけ。八ヶ岳でも南アルプスでもないのだ。
その本谷川と釜瀬川が合流して、そこから下流が、塩川と呼ばれている。その塩川は、釜無川の支流にあたる。
本谷川と釜瀬川の合流点には塩川ダム(みずがき湖)がある。つまり塩川は、ダム下の渓流ということになる。
■様々な水生昆虫がハッチする流れ

4月上旬というのは、暖かな日が増えて渓魚の活性も徐々に高まってくる。が、釣り上がりのフライフィッシングをするには、まだ少し早い。ライズを求めて、あちこちポイントを巡り歩くことが多くなる。
すぐにライズが見つかる日もあるが、そうでない日もある。この日は後者。
以前この季節の塩川に来た時には、橋の上から魚影やライズを容易に確認できたのだが、この日はライズも魚影も見つけられない。
水面近くには、メイフライ、ストーンフライ、ミッジなどが飛び交っていて、水面を流下する水生昆虫も見ることができる。生命感に溢れる流れ。ライズがないほうが不思議なくらいなのだが。
■バックに南アルプスがそびえるポイント

目ぼしいポイントをいくつか見てまわった後、背後に南アルプスがそびえるポイントに入渓することにした。ライズを探しながら流れを歩いてみよう。
ここで支度をしていると、近所の方に声を掛けられた。「以前はよく釣れたんだけどね。最近はめっきり釣れなくなってしまったよ。」という。
そういえば、見てまわったポイントで川鵜(カワウ)を何度か見かけた。釣れなくなった原因は、もしかしたら川鵜にあるのかもしれない。
■川鵜と放流魚

以前、ある漁協の方から聞いた話だが、せっかく渓魚を放流しても、川鵜が来ると一週間ほどで魚影はなくなってしまうという。
ほんの少し前まで安全な養魚場にいた渓魚たち。川で生まれ育った個体と違い、警戒心が薄い。放流直後は、川鵜から丸見えのプールなどに群れで溜まってしまうのだが、これは川鵜にとって絶好のご馳走に違いない。
ここ塩川に限らず、川鵜の姿は放流場所で見かけることが多い。そして川鵜を見かけたポイントでは経験上、ライズも魚影も確認できたためしがない。

もちろん川鵜だって悪気があってそうしているわけではないし、遊びで渓魚を捕獲しているわけでもない。
それにしても漁協による渓魚の放流は、川鵜の餌付けが目的ではないのだ。放流魚が釣り人に持ち帰られるなら仕方ないが、川鵜に腹いっぱい喰われてしまってはたまらない。
川鵜の駆除が許可されている漁協もあるようだが、川鵜も野鳥なので駆除には気を使うそうだ。ある漁協の方は「効果的な対策は、巣を見つけてそれを壊すくらいしかないんですよ」と語っていた。
漁協にはそんな苦悩もあるのだ。
■塩川のアマゴ
さて、川に降りて流れに立ってみると、水生昆虫のハッチは相当にある。が、ライズはやはり見当たらない。
ハッチがあるのにライズがないということは、地元の方の言うとおり、どうやら渓魚は少なそうだ。
結局この日は、一度もライズに遭遇することはなかった。
ライズが見つからないのでは仕方がない。この時期としてはまだ早い釣り上がりのフライフィッシングを余儀なくされてしまった。反応はもちろんよくない。
なにしろ本物の水生昆虫の流下が喰われていないのだ。偽物の毛バリが喰われるわけがない。
効率的でないのは覚悟の上ではあるが、厳しい時間が流れていく。

そんな状況の中で、何匹かのアマゴはドライフライに飛びついてくれた。
いずれもまだサビの残る魚体。暖かくなってきて、ようやく動き始めたばかりという感じだろうか。
反応してくれたアマゴは、プールではなく瀬にいたものばかり。どれも大き目の岩の脇にできたスジについていた。
川鵜も喰いづらそうな位置だし、仮に川鵜が近づいてきても、すぐに岩陰に身を隠せそうな位置でもある。
こうした場所に身を隠すことを覚えたアマゴだけが、この流れの中では生き抜いていけるのかもしれない。
釣れたフライパターンは#18のフローティングニンフだったが、やはり#18のCDCソラックスダンにも反応はあった。