■5月からが本格的な盛期
ライズ・ゲームのフライフィッシング・フィールドとしてあまりにも有名な、渡良瀬川の桐生地区(群馬県)。3月1日の解禁当初から、ヤマメのライズを求めて多くのフライマンがここを訪れる。

桐生地区の渡良瀬川というと、3月~4月のフライフィッシングが楽しいというイメージが強いが、本格的な盛期といえるのは、やはりGWごろからだろう。
この頃になると、水面を流れる水生昆虫の数も種類も多くなり、当然ライズも増える。水生昆虫がハッチする時間帯は種によって異なるが、ハッチする種が多いということは、ハッチのある時間帯が増えることにも直結する。
3月、4月はライズ待ちの退屈な時間も多いものだが、5月に入ればそうした時間が大幅に少なくなるということだ。
■安定したヤマメの魚影

桐生地区の渡良瀬川には有名なライズ・ポイントがいくつかあって、そうした場所には、入れ替わり立ち替わりフライマンが姿を見せる。
ライズがあればそこでロッドを振りはじめるが、ライズがなければ別な場所に移動する。そんなスタイルのフライフィッシングをする人が、ここでは多いようだ。
そうした有名ポイントの大半がC&R区域に指定されていることもあり、さらに放流もしっかりされていることで、魚影はとても安定している。釣れてくるのはヤマメ。精悍な顔つきをした尺ヤマメの釣果情報も、頻繁に見かける。サイズも期待できるのだ。
■賢いヤマメとの知恵比べが楽しい

魚影が濃くてライズが多いにもかかわらず、バンバン釣れてしまうというわけでもない。そこが渡良瀬川のフライフィッシングの面白さでもある。
なにしろフライフィッシャーの多いフィールド。解禁から日がたつにつれ、ヤマメたちのフライを見極める能力はどんどん向上して賢くなってくる。
しかし、水面付近の「何か」をライズして捕食しているのだから、フライがその「何か」にマッチすれば、ヤマメはフライに出てくれるはずなのだ。賢いヤマメとの知恵比べが楽しい。

一見簡単そうに見える流れが、フライを流してみると意外に複雑だったりすることもある。
そうした流れでは、ちょうどライズのあたりでフライにドラグがかかってしまったりする。そんなことを繰り返すと、ライズは止まってしまうこともある。
ドリフトが的確であること。
フライセレクトがヤマメの捕食対象にマッチしていること。
そんな当たり前のフライフィッシングの技術が試されるのが、ここ渡良瀬川といううわけだ。
■市民広場前でのライズ・ゲーム
今回の取材は2017年5月上旬。GW期間中の釣行だ。
渡良瀬川・桐生地区の有名ポイントのひとつ、市民広場前でのフライフィッシング。

入渓は午前11時。すでに何人かの釣り人が竿を出している。フライマンだけではない。ルアーマン、エサ釣りの人もいる。このポイントはC&R区域外なのだ。
市民広場前のポイントには広大なプール状の流れがあるのだが、釣り人が多くいる中でもプールのあちこちでライズリングが広がっている。
ヤマメたちの活性は高そうだ。
この日は雨が降ったりやんだりという天候。実は5月のフライフィッシングは、晴天の日には苦戦することが多い。渓魚の警戒心が高まるのだろう。晴天の日は水生昆虫のハッチも少なくなるとも言われている。

この日のように、小雨が降ったりやんだりという天候は、5月のフライフィッシングではベストの条件なのだ。
ルアーマンが立ち退いた場所にウェーディングして、しばらくじっとしていると目線の向こうでライズが始まった。
ライズの主は、数投目であっさりとフライを飲み込んでくれた。渡良瀬川のヤマメらしからぬ気前のよさ。
取り込みで流れを荒らしてしまったが、ライズはまだある。そのライズも次のキャストで難なく取ることができた。
結んでいたフライは、DD(ドロウンド・ダン:溺れたメイフライ)を意識した水面直下にぶらさがるフライ。フックサイズは#18。確信して結んだわけではないが、どうやらこれが当たりだったようだ。

釣れてくるヤマメの中には、明らかに最近の放流ものも混じっている。GWということで成魚放流された個体なのだろう。サイズはまずまずだが、フライを見極める能力はまだ未熟かもしれない。
■フライを交換してみると

他のフライパターンではどうだろう。フライをCDCダンの#18に替えてライズを狙ってみるが、ヤマメたちはこれには反応しない。水面上に浮くフライパターンには興味がないらしい。
ストマックをとることをしなかったので、実際にヤマメたちが何を捕食していたかは不明だが、流れてくるものを何でも喰っているということではなさそうだ。
こんなことを試せるのも盛期の渡良瀬川の魅力かもしれない。安定した魚影とライズがあるからこそだ。
■落ち込み下の深瀬でも

プールのライズがひと段落して、あたりを見回すと、プール下の大きな落ち込みから続く深い瀬が気になった。エサ釣り師が度々ヤマメを掛けている。
春先ならドライフライでは手が出ないポイントだが、この日の渡良瀬川は完全に盛期に突入している印象だ。こんなポイントも狙ってみたくなる。
かなり荒っぽい水面なのでライズは確認できないが、フライを流してみることにした。
ティペットに結んだフライは#12。パラシュートタイプのフローティングニンフ。プール上では#18のフライを結んでいたことを考えれば、フライのサイズはかなり大きい。

しかし、このポイントは水深があるうえに水面が荒っぽい。存在感のあるフライでなければ、ヤマメに気付いてもらえない気がする。
モンカゲロウだろうか、大型のメイフライが飛び交っていることもあり、#12という大き目のフライをセレクトすることとなった。
しばらくして、フライの流れている水面が派手に割れて飛沫があがった。広い瀬のど真ん中。ガッチリとフッキングしたようだ。
こういう強い流れにいるヤマメの泳ぎはパワフル。ワイルドなファイトを見せるヤマメとのやり取りを、存分に楽しむ。

ライズ狙いも楽しいが、瀬の中のヤマメをブラインドで狙うのもまた、楽しい。
こういうポイントでフライフィッシングを楽しむことができる。今年もいよいよ盛期がやってきた、という印象だ。
ネットに収まったのは、まずまずのサイズのヤマメ。桐生地区の渡良瀬川には尺を超えるヤマメも多いだけに、このくらいのサイズは当たり前。それでも太い瀬のポイントでヤマメが姿を見せてくれたのは、うれしい。
これからが最盛期の渡良瀬川。早春の神経質なライズゲームとは少し違う、別な魅力を感じさせれくれるに違いない。