
ほとんどの一般渓流が禁漁となる10月。この時期のフライフィッシングでは、ニジマスを中心に放流魚を相手にする機会が増える。
■放流直後の渓魚は放流後しばらく自然渓流で暮らせば、放流魚たちも流れに馴染んで野生を取り戻す。水生昆虫のハッチやテレストリアル(陸生昆虫)の流下があれば、それに対して盛んにライズするようにもなる。天然魚と同じ行動パターンになるわけだ。
しかし放流直後の渓魚達の行動は、それとは少し違う。
ニジマスに限らず、ヤマメでもイワナでも同じだが、放流された直後の渓魚は、それまで虫を喰った経験があまりない。養魚場はたいがい止水なので、水面を流下するエサを捕食した経験も少ない。

もちろん放流魚でも野生の本能は持ち合わせているので、水生昆虫のハッチにライズしてみたりもするのだが、そのライズフォームはどうにもぎこちない。慣れていないので、慌てて水面に飛び出してしまうせいではないだろうか。
そんなわけで、放流されて間もない渓魚を狙うフライフィッシングでは、天然魚を相手にする場合とは、少し勝手が違ってくることが多くなる。
■ゆっくり沈むフライ
もうずいぶん前の話になるが、ある年のオフシーズン。放流直後のニジマスが中心の、とあるフィールドでの出来事。
その日のニジマス達は、少し水深のある流れの緩いポイントの底近くに溜まっていて、ドライフライに対する反応が悪かった。その時ティペットの先に結んでいたのは、白っぽいカラーのドライフライ。
キャストを繰り返すうちに、フライは水を含んでしまったようで、着水と同時に沈み始めてしまった。ピックアップしようとしたその時、ニジマスがギラリと反転して沈んだフライに喰いつくのが見えた。

水面上を流れるフライには無関心だったニジマスが、水面下を沈んでゆくフライには反応を見せたというわけだ。
試しにそのドライフライのハックルやウイングを全てカットし、白っぽいボディーだけにしたフライをキャストしてみた。すると、ゆっくり沈んでいくそのフライに、ニジマス達は次々にヒットしてきたのだ。
■ペレット
養魚場で育った渓魚は、放流される以前はペレットと呼ばれるエサを与えられていた。養魚場でエサの時間にまかれるペレットは、ゆっくりとした速度で沈んでいく。養魚場の魚はその沈む途中のペレットを喰っているわけだ。
放流直後のニジマス達も、つい先日まではペレットを喰っていた。沈んでゆく白いフライに反応したニジマス達は、おそらくそれをペレットだと思ったに違いない。マッチング・ザ・ハッチならぬ、「マッチング・ザ・イート」だったということだろう。

今回紹介しているフライパターンは、そのペレットを意識したもの。放流魚中心のフィールドで威力を発揮するフライパターンだ。
といっても、ペレットそのものをイミテートするのはなんとなく気が引けるので、シルエットはニンフ風にして、さらに少しアトラクター的な要素も取り入れたフライパターンに仕上げている。
オフシーズンのニジマス・フィールドに限らない。解禁期間中の一般渓流であっても、放流イワナや放流ヤマメが中心のフィールドであれば、このパターンは頼りになる。
放流直後でなくても、養魚場で育った魚であればペレットの記憶が消えてしまうことは、たぶんない。ドライフライへの反応が渋く、どうにもフライセレクトに困った時には、使ってみる価値があるだろう。
■シルエット違いの3パターン

今回はシルエットとキラメキ具合の異なる3パターンをタイイングしてみた。
パターン①は、ストレートシャンクのフックにタイイングしたタイプ。
ボディはラムズウールでつくっている。オーロラティンセルでリビングしており、水中で怪しげな光沢を放つ。この光沢で渓魚の関心を引き付けようというわけだ。
パターン②は、カーブドシャンクのフックにタイイングしたパターン。ボディに絶妙な曲線ができる。
ヘッド部分にはゴールドのビーズ。さらにゴールドティンセルでボディをリビング。今回紹介している3パターンの中で一番キラメキの強いパターンに仕上げている。曇天や雨天の日にはこうしたキラメキの強いパターンが効果的だ。
ボディはクリーム色系のダビング材でつくっている。
パターン③は、ぷっくりとボリューム感のあるボディに仕上げたパターン。フックはカーブドシャンクのものを使用している。
ボディのマテリアルはラムズウール。ヘッド部分にゴールドのビーズをつけている。
フックサイズは3パターンとも、#14か#12くらいが適当だろう。タイイングするなら、どちらか1サイズだけでよいと思う。このタイプのフライは、多くのサイズを揃えてもあまり意味がない。
■ルースニングで狙う
これらのフライは、ティペットにインジケータをつけたルースニングのスタイルで使用する。インジケータを支点にして、そこから下が沈むようにするのだ。ゆっくりユラユラと沈めることが重要なので、ウエイト(オモリ)は使わないが、キャスト前にフライをしっかり水で濡らしておかないと、フライが水面上に浮いてしまうので注意が必要。
さて、特に初心者の方の釣行では、なんとしても渓魚を1匹手にしたいという日もあるだろうが、そう簡単にはいかないのがフライフィッシングである。
しかし、もしそこが放流魚中心の渓であるならば、このフライパターンは大きな力になってくれるはずだ。
(掲載日:2015年10月20日)