フライフィッシング専門ショップのバイヤー以上に、フライ用品に精通した人というのはめったにいないのではないだろうか。
バイヤーのもとには日々メーカー各社の営業担当者が訪れ、自社製品の魅力を細部にわたって伝えようとする。
バイヤーの側も必死だ。自分の判断で仕入れようとする道具は、ショップに足を運んでくれるお客様の為に本当に役立つものなのか。判断ミスは売上げに直結する。趣味でフライフィッシングを楽しむ私達のように、好き嫌いや思い込みやイメージだけで道具を選ぶわけにはいかないのだ。
イヤでも道具を評価する目は肥えてくる。
そんなフィッシング・バイヤーが、自分が使いたいと思う、あるいは使っている道具とは、どのようなものなのだろう。
今回はそんな道具たちをフィッシング・バイヤーからお聞きし、フィールドで実釣取材してみた。
■WILD-1のフィッシング部門バイヤー
取材にご協力いただいたのは、全国にアウトドアショップを展開するWILD-1(ワイルド-ワン)。WILD-1は、フィッシング用品が充実していることでも知られるが、それには理由がある。創業時は釣具店だったのだそうだ。
東北から近畿まで18店舗を運営するWILD-1のバイヤーが持つ商品知識は半端なものではない。バイヤーは各店舗の地域性なども考慮しながら、取り扱う商品を厳選しなければならないのだ。
そんなWILD-1のフィッシング部門バイヤーは、実は熱心なフライフィッシャー。バイヤーに限らず、WILD-1のスタッフにはフライフィッシャーが多いのだそうだ。
今回はそのWILD-1・フィッシング部門バイヤーから、「自分が使いたい道具」、「自分達が使っている道具」をお聞きし、それを実釣で試すという貴重な体験をすることができた。
■カムパネラの限定ロッド
昨年(2014年)創業30周年を迎えたWILD-1は、数々の限定記念モデルをつくった。その中には、フライフィッシング用品もあるのだが、そのひとつが、カムパネラの限定ロッドだ。カムパネラといえば、日本のフライフィッシング業界が誇る老舗ロッドメーカー。いつかはカムパネラのロッドを手に入れたいと考えているフライフィッシャーは少なくないはずだ。
フライマン以外にはまず知られていないカムパネラというブランドの限定モデルをつくってしまう。こうしたところにWILD-1のフライフィッシング用品に対する「本物志向」とでも言うべきこだわりを感じることができる。
7'5"の#3。6ピース。「ストリームトレッキングスペシャル」というネーミング。源流域などへ歩いてアプローチするフライフィッシングをイメージして開発されたロッドだ。
6ピースということで仕舞寸法が短く、ベストのバックポケットに入れて歩くこともできる。源流の大イワナをしっかりフッキングさせるため、バットが強めのミディアムアクション。
源流域などを歩くキャンプフィッシングを楽しむ為のロッドが欲しいという、WILD-1スタッフたちの思いが設計の随所に活かされている印象だ。
今回の実釣取材は源流ではないが、それでも寸法が短くかさばらないロッドケースはやはり有難い。
川幅のあるフィールドでの取材なので、今回は比較的遠めのポイントにキャストすることが多かった。4月上旬ということでフライは#18や#20と小さめ。このロッドのコンセプトとは異なるシチュエーションだが、キャストしてみると、遠いライズポイントにも正確にフライを落とせる。ロングキャストでもロングリーダーシステムを無理なくコントロールできることに驚いた。
■ハーディーの限定クラシック・リール
こちらもWILD-1創業30周年の記念限定モデル。名門・ハーディーの銘品「ゴールデン・フェザーウェイト」の復刻版だ。英国の工場で100台限定で生産したものだという。
「ゴールデン・フェザーウェイト」は、元々がハーディーのプレミアムモデル。1988年にハーディーのロンドン直営店100周年記念として1000台限定で生産されたようだ。もちろん今は生産されていない。中古のものでも入手したいというフライフィッシャーも少なくないだろう。WILD-1スタッフもさぞかし憧れていたに違いない。
それを創業30周年という機会に、自分たちのショップ限定品として復刻させてしまったのがこのモデルというわけだ。世界に100台しかないこの品が出来上がってきた時のスタッフたちの喜びようが目に浮かぶ。
レッドブラウンの塗装。随所に輝くゴールドパーツ。そしてウッドハンドル。
なんともいえない重厚な気品を感じさせてくれる。ハーディーというブランドをご存じない方でも、他のリールとの雰囲気の違いは感じとることができるのではないだろうか。
リールフットの片面には「Made in England」の刻印。もう片面にはWILD-1限定品を示す「W1」の文字とシリアルナンバーが刻印されている。
今回は、カムパネラのロッドにこの「ゴールデン・フェザーウェイト」をセットするという贅沢を味わうことができた。当たり前かもしれないが、銘品ロッドには銘品リールがよく似合う。あらためてそんなことを実感させられる取材となった。
たしかに、このロッドとリールの組み合わせなら、「自分も使いたい」と思うフライマンは多いだろう。
■グレースのハンドメイド・ランディングネット
こちらも贅沢な逸品。グレースのランディングネット。グレースは、ランディングネット製作の第一人者・平岡勇一氏が一本一本丹念に手作りしているブランドとして知られる。
グレースのネットの特徴は耐水性に優れたオイルフィニッシュ。高い耐水性が木の膨張や縮小を抑え、割れにくい仕上がりになるのだそうだ。
ヤマメをネットに収めて写真撮影してみると、実にヤマメが引き立つ。ランディングネットの美しさは、魚をも引き立たせるということを実感した。
このランディングネットもWILD-1創業30周年の記念限定モデル。今後の生産は全く未定だそうだ。
■パタゴニアのフィッシング・バッグ
こちらはパタゴニアの「ステルスアトムスリング」というワンショルダータイプのバッグ。WILD-1スタッフの間で使用率No.1のフィッシング・バッグなのだそうだ。
ベストの代用として使用できるものなのだが、使ってみるとなるほどコレは便利。結構な収納力でありながら身軽に動ける。
フライ交換やティペット交換の時には、背中にあるバッグをぐるりと前方に回して使うのだが、小物類は全てフロントパネル内のポケットに収納できるので、使い勝手がいい。サイドには飲料ボトル用のポケットなどもついていたりして、なかなか気の利いたつくり。歩きの多い釣行では特に重宝しそうだ。
■フジノのリーダー&ティペット
WILD-1・フィッシングバイヤーがイチ押しする渓流攻略システムが、フジノのリーダーとティペット。今回の取材で使用したのは「ウルトラロングリーダー14ft」と「ウルトラティペット」だ。筆者は数種類のリーダーをフィールドの特徴に合わせて使い分けているのだが、フジノのこのリーダー&ティペットは、筆者のベストのポケットにも必ず入っている。
特筆すべきはリーダーのテーパー設計で、なんと全長の80%がテーパー状。これにより長いリーダーシステムを簡単にターンさせることが可能になる。
各社リーダーのテーパー比は、当サイトのこちらのページで紹介しているので、参考にしてほしい。
■ktyとWILD-1のコラボ・フロータント
WILD-1はktyとコラボレーションしてフロータントもつくっている。
パウダータイプとリキッドタイプがひとつにまとまったフロータント。高い浮力。長い持続力が特徴だ。
パウダーフロータントにありがちな、フライが白く粉っぽくなってしまう印象が少ない。CDCフライからパラシュートフライまで、様々なドライフライに対応できるのが有難い。ビンが軽いところにも好感が持てる。
WILD-1のスタッフたちが求める理想を形にしたのが、このフロータントなのだろう。
さて、今回の取材ではこれらの逸品を手にした贅沢なフライフィッシングを楽しむことができた。
一流の道具は確かに性能が高かったり、使い勝手がよかったりする。それまでよりも自分のフライフィッシングの質も高くなったような気がする。
しかし、最高の道具を手にして渓に立つ最大の利点は、なんといっても「気分の良さ」にあるのではないだろうか。誰かに見られているわけでもない。にもかかわらず、なんとなく誇らしい気分を味わうことができる。
フライフィッシングとは、なんとも不思議な遊びだ。