HARDY(ハーディー)。
1873年創業。英国で140年以上の歴史を誇る老舗中の老舗。
世界中のフライフィッシャーが憧れる名門フライフィッシング・ブランドだ。
今回、そのリールとロッドの現行モデルを使用して実釣取材をする機会を頂くことができた。
貴重な機会。
さて、ハーディーを連れてどこの渓に行こうか。
ハーディーが似合う日本の渓流はどこだろう。
■日本の伝統的なトラウト・フィールドへ
迷ったあげく、カーナビの目的地にセットしたのは岐阜県の郡上(ぐじょう)。
郡上は伝統的にアマゴやサツキマスの釣りが盛んな地域で、この地を流れる長良川などでは、今の時代も地元の釣り名人が華麗な竿さばきを見せてくれる。伝統ある日本のトラウトフィッシング・フィールドというわけだ。
そんな場所で、英国の伝統的フライフィッシング・メーカーのつくる道具を使い、朱点の鮮やかな美しいアマゴを釣る。
今回はそんなプランを実行することにした。
■英国王室ご用達のロイヤルブランド
その昔、中世の時代。
イギリスの貴族達は、訪れてきた客人を自分の領地の森でハンティングをさせ、川でフライフィッシングをさせてもてなしたという。ハンティングとフライフィッシングは、英国貴族のたしなみだったのだ。
そうした背景もあって、英国王室にもフライフィッシング愛好家は多いようだが、ハーディーは、多くの英国王室ご用達許可を与えられたメーカーとしても名高い。
1986年には王室から「クイーンズ・アワード」が授与され、その翌年には、ハーディーの博物館が故・マーガレット王女によって開館されたという。
ハーディーは、ため息の出るような華麗なロイヤルブランドでもあるのだ。
■銘品リールと銘品ロッドの現行モデル
今回使用したリールは
「Feather weight(フェザーウェイト)」。
ロッドは
「Jet 7'6" #3」。
「Jet」の現行モデルは、カーボンロッド。2種類の異なるカーボン素材が使用されている凝った設計は、いかにもハーディーらしい。
使ったモデルは、7フィート6インチの#3。ミドルアクション。日本の渓流に非常に適したモデルだ。
4ピースなので持ち運びにも便利。車止めから歩く釣行でも活躍してくれるだろう。
「Feather weight」は、半世紀もの間、デザインや設計に大きな変更がないクラシックリール。非常にシンプルだが、なんともいえない気品を感じるデザイン。フライリールとして、いわば「完成形」といえるのではないだろうか。
耐久性の高さにも定評があって、何十年も前に購入した「Feather weight」を、今もメインのフライリールとして使っているというようなフライマンの話もよく耳にする。
そうした人の「Feather weight」は、もちろんキズだらけなのだが、それがアンティーク的ないい雰囲気をさらに強調させている。使い込むほどに味がでてくるところが「Feather weight」の魅力という気がする。
「Jet」に「Feather weight」をセットして郡上アマゴを釣る。なんともワクワクするシチュエーションだ。
■のどかな里川・栗巣川
取材日は2015年4月中旬。
実は前日は全国的に大荒れの天気だった。ここ郡上にもかなりの量の降雨があったようだ。おかげでこの日に入渓を予定していた川は軒並み大増水。いくつもの渓をのぞいて、なんとか釣りができる水量だったのが、この栗巣川だった。
栗巣川は郡上市を流れる長良川の支流。のどかな雰囲気の里川で、春のアマゴ釣り場として知られる。普段の水量は写真よりもかなり少ない。落差がほとんどない平坦な瀬が中心のフィールドで、アマゴの魚影が多い。
この日はいつもよりかなり多めの水量に強い流れということで、ハッチもライズも見当たらない。アマゴたちも石裏や岸際の流れの緩い場所に避難してしまったのだろう。残念ながらドライフライに反応してくれる渓魚はいなかった。
それでも、やわらかな日差しと芽吹き始めた緑の中で、のんびりとハーディーのロッドを振るのは、とても気分がいい。
聞こえてくる音も、川のせせらぎと鳥の声くらい。リールを巻くときに「Feather weight」が出すクリック音が心地よく渓に響く。
時間もゆったり流れているような気にさせられる郡上の里川ということもあるのだろう。渓魚が姿を見せてくれないこともさして気にならない。
たまにはこんな日があってもいいかな、とさえ思ってしまうから不思議だ。
午後遅めの時間になると水量はだいぶ落ち着いてきた。あいかわらずライズは見当たらないが、水生昆虫のハッチはぼちぼち見られるようになってきていた。
これなら本流の水量も落ち着いてきているかもしれない。イブニングは本流である長良川で楽しむことにしよう。
■アマゴの銘川・長良川
郡上地区の長良川本流。まだかなり増水気味ではあるが、午前中に眺めたときの状態と比べれば、だいぶまし。なんとか釣りができそうな水量にまで落ち着いている。
郡上地区の長良川といえば、2月のシラメ(銀毛のアマゴ)を狙ったフライフィッシングが人気だが、実は初夏の瀬をドライフライで狙うフライフィッシングも楽しい。立派に育った郡上アマゴは、惚れ惚れするほど美しい。5月になればサツキマス(降海型の大型アマゴ)の遡上も見られる。
ところで今回使用しているハーディーのロッド「Jet 7'6" #3」は、山岳渓流などのあまり規模が大きくないフィールドに適した設計だ。
郡上の長良川は規模が大きい本流。おまけに増水。ロングキャストが多くなる。
しかし「Jet」は、遠いポイントにも正確に軽々とドライフライを届けることができた。
今回「Jet」を振り続けて、最も印象に残ったのはその「軽さ」。キャスティングに使う力が少なくて済む。
また、力を入れないキャストでも、しっかりロッドがしなってラインにパワーを伝えてくれる。そうしたターン性能の高さも感じることができた。
さて、ここ長良川でもライズはほとんど見られず、フライに反応してくれる渓魚は少なかった。
それでも「Jet」と「Feather weight」の組み合わせは、美しいアマゴを長良川の流れから連れてきてくれた。
渋い銀色の魚体に鮮やかな朱点。郡上アマゴには、ルビーをちりばめたアンティークアクセサリーのような気品を感じる。ハーディーの持つ気品がよく似合う渓魚だということに気付かされた。