■本流から源流まで雰囲気を1日で楽しめる夏井川水系
この時期、多くのフィールドでイワナやヤマメの活性が高くなってくる。待ちに待った渓流フライフィッシングの最盛期の到来だ。
今回の釣行は福島県・阿武隈山地のフィールド。阿武隈山地には有望な渓流がいくつか流れているが、そのうちのひとつ夏井川水系に出向いた。
阿武隈山地は福島県の太平洋側(浜通り)と内陸側(中通り)の境界になる山並みで、夏井川はいわき市内で太平洋に注ぐ独立河川だ。
今回釣り歩いたのは、本流フライフィッシングの雰囲気を楽しめる規模の大きなポイント、発電用の取水により手頃な規模感になっている渓流らしいポイント、そして源流の雰囲気を感じることができる支流。
この区間では、わずかな距離を移動するだけで3タイプの渓相を楽しむことができるのだ。
アクセスがよいのも夏井川の魅力。磐越道のICから近く、林道のダート道を走ることもない。なんとも魅力的なフライフィッシング・フィールドなのだ。
■アウトドアショップ・WILD-1郡山店・曳地さんの釣行に同行
取材は2017年5月中旬。今回の取材に協力してくださったのは、アウトドアショップ、WILD-1(ワイルドワン)郡山店のフィッシング部門スタッフ・曳地(ひきち)さん。フライフィッシング専門誌などにも度々登場しているので、ご存知の方も多いだろう。南東北の渓流を知り尽くすフライフィッシングの名手だ。
WILD-1フィッシング部門スタッフの持つ豊富でタイムリーなフィールド情報には、毎度感心させられるのだが、今回の夏井川も曳地さんの見立て。各地の雪代の具合や降雨の状況、直近の釣果情報などを勘案して「この日ならココがいいですよ」と教えてくださる。
入退渓のポイントなども本当によくご存知なので、安心してフィールド選びをおまかせできる。
「店のお客様にタイムリーにお伝えできるよう、情報収集するのも仕事のうちですから」と曳地さん。WILD-1のフィッシング部門スタッフは本当に皆さん、頼もしい。
■手頃な水量の発電所上流側
さて、この日はまず、夏井川の川前発電所前の流れに入渓した。
流れをのぞいてみると、発電所の上流側と下流側とで水量がだいぶ違う。下流側は川幅いっぱいの太い流れで本流的。一方、上流側はのんびり歩けそうな手頃な水量だ。
「上流で取水された水がここで放水されています。放水口の上と下とで、全く渓相が違うんですよ。」と曳地さん。まずは取水されて水量の少ない上流側を釣ることにした。
キャストを開始して間もなく、曳地さんの3番ロッドが曲がった。ネットに収まったのは体高のあるヤマメ。
「夏井川のヤマメは綺麗なんですよ」と曳地さん。確かに美しい魚体だ。プロポーションもいい。
「夏井川はヤマメのフィールドです。イワナはほとんど出ません。8月くらいになると、このヤマメも尺前後に育つと思います。」という。
ティペットに結ばれていたのは、黒っぽいカディスタイプのフライ。#12くらいだろうか。「テレストリアル風のカディスです」とのこと。インジケータが取り付けられているので視認性がよい。
リーダーは14フィート。ティペットを足して全長20フィートくらいのシステムだそうだ。
■気前よく飛び出してくるヤマメたち
夏井川のヤマメたちは、曳地さんの流すフライに気前よく飛び出してくる。あっという間に数匹のヤマメが曳地さんのランディングネットに収まった。
ヤマメたちの活性は高い。どのヤマメも体高があって、魚体は美しい。
流れの脇にできた吹き溜まりのような場所を見ると、おびただしい数の水生昆虫の死骸が浮いている。
クロマダラカゲロウらしきメイフライのスペント・スピナーを中心にモンカゲロウのような個体も見られる。
フックサイズにして#10前後ほどの大型メイフライが多かった。
「こんなのををたらふく喰うので、ここのヤマメはプロポーションがよくなるのでしょうね」と曳地さん。
■精度の高いキャスティング
さて曳地さんのフライフィッシングだが、釣り上がるスピードがとにかく速い。立ち止まることなく歩きながら釣っているのか、と思うほどだ。
ほとんどのポイントは1~2投で済ませる。じっくりキャストを繰り返すような場所は少ない。
「狙った場所に1投でフライを落とせば、釣りは早くなりますよ」とのこと。釣り上がりの速さは、キャスティングの精度の高さからくるというわけだ。
釣り上がりが速ければ、それだけ多くのポイントを狙える。当然、渓魚を手にするチャンスもそれだけ増えることになる。
■水量豊富で本流的な流れ
川前発電所の下流側の夏井川は、水量が豊富だ。次の入渓ポイントは、その水量豊富な区間。本流的な渓相の中でフライフィッシングを楽しめる。
「阿武隈山地には水量豊富な川がいくつかあります。森が豊かということもありますが、水を蓄えやすい地質なのかもしれませんね。」と曳地さん。
夏井川の流れる阿武隈山地は降雪が少ないのだが、それにもかかわらずご覧のような水量だ。
曳地さんのタックルは、先ほどの水量の少ない区間と同じもの。3番ロッドのロングリーダー・ティペットのシステムだ。ティペットの先には#10くらいのクロマダラ風のパラシュートが結ばれた。
「この区間は発電所上よりもグッドサイズが期待できますよ」という曳地さん。3番ロッドにもかかわらず、かなりのロングキャストで遠くのポイントにフライを落としていく。
ほどなくして曳地さんの流したフライを渓魚がくわえた。岸際の流れから出てきたのは、夏井川では珍しいイワナだった。
このイワナをキャッチした直後、空でゴロゴロと音がしたかと思うと雨が降り始めた。狙いはグッドサイズのヤマメだったのだが、想定外の雷雨。ここは一旦退散。
夏井川本流は降雨があると濁りやすいということなので、支流をのぞきに行くことにした。こういうシーンでWILD-1スタッフの豊富な情報の引き出しは、本当に頼りになる。
■源流の雰囲気を気軽に楽しめる背戸峨廊
曳地さんが案内してくれたのは背戸峨廊(せどがろう)と呼ばれる渓谷。夏井川の支流・江田川の中流部だ。背戸峨廊は景勝地になっていて、渓谷の入り口には観光案内の看板があり、駐車場も整備されている。
渓谷の入り口までは、夏井川本流との合流点から舗装道路を車で数分走るだけだ。
渓谷入口から先には遊歩道がついていて、この遊歩道を数十mほど進むと川に降りることができる。その地点から先は、写真のような美しい源流の雰囲気。
ここでは、上流まで延びる遊歩道を使いながら釣り上がることができる。とても気軽に源流フライフィッシングの雰囲気を味わうことができるというわけだ。
「源流の渓相ですが、釣れるのはヤマメです。大きなサイズは少ないのですが魚影は濃いんですよ。」と曳地さん。
流れに少し立ち込んでみると、なるほど結構な数のヤマメたちの魚影が走る。
雷雲が通り過ぎるのを待ってロッドを振り始めた曳地さん。遠目の立ち位置からロングキャストでフライを流すが、ここでもあっという間にヤマメを手にする。いやはや、本当によく釣る。
「ヤマメは怯えさせると隠れてしまい、なかなか流れに戻りません。なので遠くからロングキャストで狙うのが特に効果的なんです」とのこと。やはりキャスティング技術がモノをいうようだ。
そうしているうちに日差しが戻り、それを合図に水生昆虫のハッチが始まった。あちこちにライズリングが拡がる。新緑と木漏れ日の美しい源流でヤマメのライズ。なんとも贅沢な背戸峨廊。
■WILD-1フィッシングスタッフが使う道具をチェック
さて、曳地さんがこの釣行で使用していた道具をいくつかチェックしておこう。
フライフィッシング用品の品揃えがとても充実しているWILD-1。そのフィッシング部門スタッフは当然、フライフィッシング用品を見る目が非常に肥えている。そうした人がご自身で使う道具だ。これは、やはり気になる。
■ロングキャストを支えるライン
今回使用していたフライラインは、「ウェーブレングス トラウト」の3番。このラインが曳地さんのロングキャストを支えていた。
摩擦抵抗が非常に少ない為、ロッドのガイドをシュルシュルとラインが滑ってゆく。触ってみるとわかるのだが、このラインは表面がザラザラに加工されている。これによって摩擦抵抗を少なくしているというわけだ。
さらにこのラインはメンテナンス・フリー。メンテ不要なのだ。逆に「洗ってはいけない」のだという。おそらくザラザラの加工に悪影響を及ぼしてしまうのだろう。
釣行前に時間の余裕がないときなど、メンテナンス・フリーというのは実にありがたい。
■パタゴニアのウェーダー
ウェーダーはパタゴニアの「スキーナ・リバー」。
バックル・ベルトの長さの調整でチェストハイにもウェストハイにもなってしまうという便利なウェーダーだ。夏場の暑い時期などはウェストハイ、冷える季節はチェストハイなど、気温に応じて簡単に変えることができる。
ストレッチ性にも優れていて、ヒザ周りなどを動かしやすいそうだ。ストレスの少ない釣行に役立つ。
さらに気になる耐久性も向上したそうで、安心して快適に使えるウェーダーに仕上がっている。
■改良されたフロータント
曳地さんがメインに使っていたフロータントは「ドライ・トニック」。WILD-1とktyがコラボして開発されたフロータントだ。
ktyのリキッドタイプとパウダータイプをミックスして「いいとこ取り」してしまったハイブリッドなフロータント。
好評で発売3年目を迎えているそうだが、現在WILD-1の店頭に並んでいる製品は従来品を少し改良したものだそうだ。
従来品よりフッ素濃度を高くしたのだという。これにより、浮力の持続性がアップしているそうだ。
一般的なパウダー・フロータントのように白くならない。フライをそのままドブ漬けするだけ。なかなかに使い勝手のよいフロータントだ。