9月のフィールドといえば、釣行が上手く雨後にあたらない限り、たいがいは渇水気味。産卵を控えて忙しい良型のイワナたちは、水面のフライに関心を示さなくなる。
渇水と産卵活動という二つの要因が重なった結果、盛んにドライフライにアタックしてくるのは、その年に生まれたばかりのおチビちゃんだけ、ということが多いのが現実だろう。
とは言え、シーズン一番の大物が釣れるのも9月であることが多い。多くの試練を乗り越えて秋まで生き抜いてきた渓魚は、イワナもヤマメも大きく立派に育っている。渇水であろうが、産卵間近であろうが、全くエサを食べないわけにはいかない。
そうした渓魚の目の前に、上手い具合にフライを流すことができた時こそ、シーズン一番の大物に出会うことができるチャンスなのだろう。
まさにそんな一日となった取材があった。取材日は、2011年の9月後半。
この時期ともなると、このエリアでは少しずつ紅葉する木々もでてくる。深夜から早朝にかけて気温がぐっと下がり、寒暖差が大きくなる。
この日、野川に入渓したのは、午前7時すぎ。まだ肌寒い時間帯。水温も低めで10度を切っていた。
早朝に反応したのは小さなイワナ
案の定、相手をしてくれるのは当歳魚の小さなイワナばかり。大き目のフライをセレクトしていることもあって、フッキングしないことが多い。渓を釣り上がっていくと、頻繁に魚が走り、魚影の濃さを感じさせてくれるのだが、それらも皆、おチビちゃん。「やはり9月は、こんなものか」などと考えながら、それでも、フライに反応してくれるイワナたちがうれしい。このイワナたちが翌年には立派な魚体に育っているはずだ。
状況が変わってきたのは、午前9時をまわった頃から。
岸際の流れをウェーディングしていると、グッドサイズのイワナが走ったのだ。良型が着いていた流れに立ち込んでしまった悔しさと、良型を目にしたうれしさとで複雑な思いだ。少し歩くと、また大きなイワナが走る。水温が上がってきたのだろう。サイズの良いイワナが動き出したらしい。
そしてグッドサイズが
そして時計の針が午前10時を指したころ。
対岸の張り出した枝下の緩流帯に大き目のフライを落とすと、ゆっくりと、そいつは浮かび上がり、いかにも東北のイワナらしく大きな口を空けて、なんの疑いもないように#12のフライを吸い込むように口に入れた。
精悍な顔つきの堂々たるイワナ。厳しい雪代に鍛えられたのであろう、大きく立派なヒレには感動すら感じる。
もちろんこれが、この年一番の大物となった。
(掲載日:2013年09月01日)
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