
群馬県上野村を流れる神流川は関東でも屈指のヤマメの銘川として知られている。
村内の本流下流域はのどかな雰囲気の里川。上流域や各支流は豊かな自然の中を流れる山岳渓流だ。上流域や各支流には天然のイワナも多く棲息する。
先進的な漁協
実は関東で最初にC&R区間が設定されたのは、ここ上野村漁協管内の神流川。現在も本流の2ヶ所にC&R区間が設定されている。
さらに支流の本谷は、全国的にも珍しい完全予約制というレギュレーション。本谷を7区画に分け、予約者にはそのうち1区間を割り当て、区間独占で釣りを楽しんでもらう。許可されている釣法はフライフィッシングとテンカラのみ。もちろんC&Rだ。

昨年の秋、漁協の方に禁漁になった本谷を案内していただいたのだが、そこで目にした光景は今も目に焼きついて離れない。落差がありいかにも山岳渓流といった雰囲気の渓相。その中にそれほど大きくはないプール状のポイントがあった。その流芯脇の水面近くに、30cm前後であろうイワナ達が何匹も定位していたのだ。大イワナ達は時折ゆっくりしたアクションで水面を流れる何かを捕食していた。時期的にコカゲロウだろうか。
それはまるで東北の源流域、車止めから何時間も歩かなければたどり着けないような渓にでも来たのか、と錯覚してしまうような光景だった。
漁協の方のお話では、イワナについてはこの川で再生産されたものが多いのだという。
こんな渓が関東にあった。アクセスも悪くない。まさに「灯台下暗し」という思いがした。
今シーズンはさらに支流のひとつである中ノ沢が、本谷と同様の完全予約制・C&Rのレギュレーションになる。こちらはヤマメ主体のフィールドになるそうだ。
漁協・組合長さんのお話では、中ノ沢にはダムがない分、本谷よりもさらに自然な流れが維持されており、より多くの渓魚の再生産が期待できる、ということだった。
上野村漁協がこうしたレギュレーションを実施した背景には、釣り場の未来に対する強い危機意識がある。民家より上流域では親魚を残す。従来のような釣りは民家より下流域でしてもらう。そうすることで上流域で渓魚が自然に増殖するフィールドをつくれるのではないか。釣り場を後世に引き継がなければならないという漁協の責任感のもとに生まれたのが、この仕組みだったのだ。

「完全予約制」、「人数制限・区間独占」、「C&R」、「毛ばり釣り専用」。
これらを実現させるまでには、地元の釣り人の理解、県との調整など、実に多くのハードルを超える必要があったそうだ。従来の常識にとらわれない上野村漁協の取り組みは、非常に強い熱意がなければ実現できなかったもの、ということなのだろう。
本谷・中ノ沢の解禁は、今シーズンは4月中旬~下旬を予定しているそうだ。両フィールドについては解禁後にまた詳しくレポートさせていただくことにしよう。
解禁直後の神流川
さて、解禁前のフィールドの話が長くなってしまったが、今回取材したのは、解禁2日目の神流川、本流に設定されている2カ所のC&R区間。3月2日に取材に出向いた。
午前10時すぎに下流側のC&R区間であるヴィラせせらぎ前を覗いてみると、平日にもかかわらず数名のフライマンがキャストを繰り返していた。

ヴィラせせらぎ前のプール状のポイントは、例年解禁当初からヤマメのライズが見られるフライフィッシングの有名ポイントだ。
しかしこの日は流れを覗き込んでもあまり魚影は見つけられない。キャスト中のフライマンに話を聞いても、渋い答えしか返ってこない。ライズもなく反応も少ないようだ。この時間帯はほとんどのフライマンがマーカーをつけてフライを沈めるルースニングのスタイルで釣りをしていた。
後で知った話なのだが、この日のヴィラせせらぎ前のヤマメたちは、このプール状の流れの上流側の底石の多い緩やかな瀬のポイントにまとまって入っていたようだ。

帰り際にヴィラ前でばったりお会いした著名なフライフィッシャーの方がそう教えてくれた。この方は前日にその瀬を釣ったそうで、ヤマメたちは元気にドライフライに飛び出してくれたそうだ。
役場前のポイント
もうひとつのC&R区間、村役場前に移動したのは午前11時ごろ。こちらにも数名のフライマンの姿が見られる。
しばらく眺めていると、こちらでは時折ロッドをしならせているフライマンが目に付く。その中の一人がちょうどカメラの前でヤマメをフッキングさせた。フライマンが手にしたのは、まずまずのサイズのヤマメ。23~24cmほどだろうか。ニンフを沈めてルースニングのフライフィッシングで仕留めていた。

漁協・組合長さんのお話では、近年の放流は産卵能力のある「親魚サイズ」にシフトしているのだという。以前は稚魚放流が多かったが、今は「再生産の多い渓」を目指してそうしているのだとか。解禁直後からグッドサイズのヤマメが釣れてくるのには、そうした理由があったというわけだ。
さてヤマメを仕留めたフライマンに話を伺うと、この時間になってようやくヤマメの活性が上がってきて、フライに反応しはじめたということだった。ヒットポイントを覗き込むとそこにはヤマメが群れをなして泳いでいた。時々水面に浮いてきてライズするヤツもいる。ライズは10~15分ほど前から始まったという。
解禁2日目。ヤマメたちはまだあちこちに散っていなかった。ヤマメの溜まっているポイントを見つけ、水温が上がり始め活性が高くなる時間にその場所でキャストできれば、かなりの確率でヤマメを手にすることができそうだ。
著名フライマンも集まる解禁直後

ところで、解禁直後のここ神流川には、例年著名なフライマンも多く訪れてくるのだそうだ。前述の著名フライマンからお聞きしたのだが、3月の解禁当初に安定してドライフライのフライフィッシングを楽しめるフィールドはそう多くない。その中でここ神流川のヤマメたちは、解禁直後からドライフライに飛び出してくれる。著名フライマンたちもそれを目当てに集まってくる、ということだった。