■銘川の宝庫・飯豊連峰
良い水源地にはいくつもの銘川が流れていることが多いが、飯豊(いいで)連峰の山々もそんな場所のひとつだ。
福島・山形・新潟の三県にまたがる飯豊連峰。飯豊山(2105m)、大日岳(2128m)、西大日岳岳(2092m)と、東北には珍しく2000m級の山々が連なる。

今回はその飯豊連峰の福島県側を流れる一ノ戸川でフライフィッシングを楽しんだ。
飯豊連峰の南斜面、福島県喜多方市を流れる人気渓流だ。
飯豊連峰には、新潟県側の斜面を流れる飯豊川(加冶川)や胎内川、大石川、山形県側を流れる玉川や置賜白川などの銘川がひしめいている。
このうち飯豊連峰の主峰・飯豊山(2105m)付近を水源とする飯豊川(加冶川)や玉川は、水量豊富で大規模な渓流。付近は万年雪が残るほどの豪雪地帯なので、雪代時は激流となる。
源流域まで続く道もないので、飯豊川や玉川の源流で竿を出せるのは、ごく限られた源流釣り師だけとなる。
■手軽な源流
一方、今回取材した一ノ戸川の水源は、標高1644mの三国岳や、1485mの地蔵山の付近だ。標高2000mを超える飯豊山付近と比べれば積雪は少ないし、南斜面なので雪解けも早い。
したがって飯豊川や玉川と比べると、落ち着いた水量で流れの規模も手頃だ。ドライフライのフライフィッシングには丁度良い感じ。
一ノ戸川は源流部で大白布沢と小白布沢に分かれるが、その分岐点・川入地区に集落があるため、源流域までしっかりした舗装道路がついている。道路と川との高低差は少なく、入渓も容易だ。

危険な箇所も少なく、手軽に源流釣りを楽しむことができるところが、一ノ戸川の人気の理由だ。
■フライフィッシング向きの渓相
比較的平坦な瀬が多く、落差の少ない流れ。
こうした流れは、エサ釣りよりもフライフィッシングやテンカラ釣りのほうが向いている。天井が開けていて、ラインを伸ばしやすいところもフライフィッシング向き。
石の大きさも、大きすぎず小さすぎず、丁度良い。この石が流れに変化をつけていて、イワナやヤマメの好みそうなポイントを沢山つくりだしてくれている。
ストレスの少ないおおらかなフライフィッシングを楽しみたい方には、魅力的な渓相といえるのではないだろうか。
■源流フライフィッシングの雰囲気を気軽に味わうことのできる区間
今回の取材は、2016年9月中旬。一ノ戸川の上流部・川入集落の手前に入渓した。

この付近は落差の少ない流れで遡行は楽。入退渓で崖をよじ登ったりする必要もない。
舗装道路沿いということを除けば、気軽に源流フライフィッシングの雰囲気を味わうことのできる区間だ。本格的な源流釣行はおっくう。でも源流で遊びたいというフライフィッシャーには、手頃なフィールドかもしれない。
この渓はイワナ・ヤマメの混生。中・下流域はヤマメが中心。上流域ではイワナ中心となる。
漁協による放流もしっかりされていて魚影はなかなかのもの。尺ヤマメ・尺イワナの釣果も多く聞かれる。
■思わぬ大苦戦

この取材も沢山の渓魚たちとの出会いを確信して臨んだのだが、思い通りに事が運ばないことが多いのもフライフィッシング。
思わぬ大苦戦となってしまった。
今回はイワナ狙い。
ロッドを振った区間はイワナ中心の流れだ。が、どういうわけかドライフライに飛びついてくるのは、チビヤマメばかり。イワナはなかなか姿を見せてくれない。
漁協の方によれば、この区間にヤマメの放流はない。下流に放流されたヤマメが上ってきているんだね、というお話だった。
■気まぐれな9月のイワナ

9月のイワナは、本当に気まぐれだ。
グッドサイズがバンバン釣れてしまう日もあるが、この日のように沈黙してしまう日も多い。釣りを始めてみるまで、状況がわからない、というのが9月のフライフィッシングという気がしている。
この日、イワナがドライフライに喰いついたのは、たった一度。日陰の岩盤脇。写真のポイントだ。
そこそこ水深があって、しっかりした流れのスジもできている。流速も丁度いい。教科書に出てきそうなイワナの定番ポイントだ。この日遊んでくれたたった1匹のイワナは、流れのスジの少し脇で出た。
実は一ノ戸川の上流部は日陰が少ない。岩盤のポイントも多くない。開けた瀬のポイントがほとんどだ。南向き斜面を流れる渓流なので、この日のように快晴の日の日中は、流れに直射日光が照りつける。
もしかすると9月に限らず、快晴の日中に一ノ戸川でイワナを釣るのは、そう簡単ではないのかもしれない。